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鮎に魅せられたフレンチ料理人

延岡の秋から冬の風物詩と言えば『鮎やな』です。毎年伝統的な方法で架設され、その美しい景観と、鮎を焼く香ばしい香りに誘われて、多くの観光客で賑わいます。  やな漁は、産卵のために川を下る落ち鮎をねらう漁法。杉丸太や竹、簀子、大量の川石で堰を作り、一箇所だけ鮎の通り道を作ります。そこを通った鮎は『落て簀』という簀子に打ち上げられるという仕組み。

春、海で生まれた若鮎は川を遡上しながら次第に成長していきます。川底の石には、鮎がその硬い唇でこそぎ取るようにして食べた藻の跡『ハミ跡』が多く付き、良い苔の生える石の多い場所を巡って鮎同士の縄張り争いが起こります。  自分の縄張りに入ってきた鮎に体当たりの攻撃をする習性を利用したのが『友釣り』です。鼻管を付けてテグスの先につないだオトリ鮎を泳がせ、別の鮎の縄張りに誘導します。縄張りを荒らされた鮎は、オトリに体当たりし、オトリの背中に仕掛けられた針にかかるのです。普通の餌釣りでは決して釣れない鮎を釣るために、人々は創意工夫をこらして様々な漁法を編み出してきたのでしょう。

フレンチの料理人、濱野さんも鮎釣りに魅せられた一人。しかし彼の場合は、ただ鮎を釣って自分で食べるだけではなく、別の目的があるのでした。

濱野さんのスペシャリテは若鮎のリングイネ。自ら五ヶ瀬川で釣り上げた鮎を使います。合わせるのは延岡のきゅうり。川底の岩に生える藻を食べて育つ鮎はきゅうりの匂いがすると言われ、香魚とも呼ばれます。

多く釣れた日には鮎を素焼きにして保存しておきます。川底の岩に育つ藻を食べて育つ鮎。内臓の苦味は鮎の醍醐味です。「うるか」は鮎の身も、骨も、内臓もすりつぶして塩漬け発酵させたもので、延岡では古くから親しまれています。濱野さんは、この「うるか」をイメージさせる鮎の内臓のソースで鮎の醍醐味を最大限に引き出します。  頭やヒレ、骨はオリーブオイルでカリカリに揚げて添えます。鮎一匹の全てを余すところなく使いきり、香り高い一皿のパスタに仕上げました。